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竜を継ぐ者(21)彩夏の気持ち



「感じた事のある気に誘われてみれば……娘、またおまえだとは思わなかったぞ」

 独特の喋り方に聞き覚えがあるけど、誰だっけ……彩夏は記憶を手繰るように思いを巡らせた。
 漸く思い当たるとポカンと開いた口を閉じて、眦をキュッと釣り上げた。

「――あ!?あなた、私を強姦した……えーと……変態幽霊ね!?」
「なんじゃその、変態幽霊とは?けったいな|趣味《センス》じゃなぁ」

 彩夏は思った。
 あんたには言われたくないし、他に呼べる名前がないじゃないと。

「だったら名乗りなさいよ」
「ふん、良かろう。俺の名は、天て……」
「あまて……?何で黙るのよ、早く教えなさいよ。笑ってあげるから」
「ふん……矢張り良い。|真名志《まなし》と呼ぶが良いわ」
「何なのよ……」

 笑うと言ったから、真名志と名乗る仮定幽霊はヘソでも曲げたのだろうか。
 しかし彩夏は、まぁいいやと思った。こっちだって腸が煮え返るくらい怒ってるのだ。
 真吾の中からまた、こんな……これでは、もう疑う余地もない。似たようなシチュエーションで、同じような事を彼がした時に、また現れたとあっては……信じる意外ないではないか。

「まぁ良い、時が惜しいわ。おまえに言伝を頼みたい――」

 彩夏の怒りに対して、真名志はどこ吹く風だ。
 真吾に襲った非が無くても、この身体の持ち主が彼であっても、今現在動かしているのは真名志。これは正統な怒りの行動だから、きっと許してくれるわよね――彩夏は真名志の胸倉を掴むと、憤怒の形相でグラグラと揺すった。

「何が言伝よ!あの時の恨みは忘れてないんだから!」
「鬱陶しい女じゃなァ。おまえだって悦んどった癖に……」
「な――何ですって!?そんな訳ないでしょ、この変態!強姦魔!」

 ギリギリと胸倉を締めつける彩夏の手を、真名志は軽くあしらい一喝した。

「ったく……煩いわ娘!時が惜しいと申したであろう!!」

 腹に響くような怒号に彩夏はビクッと飛び跳ねると、悔しい事に思わず怒りも忘れてしまった。
 まるで神経を愛撫するようなソフトな話し声の真吾と、猛々しい山のような真名志の傲慢な話し方では、あまりに違い過ぎる。
 真吾が静なら、将に真名志は動――まるで対極だ。
 彩夏の脳裏に、さっき真吾から聞いた陰陽対極が浮かぶ。
 静と動というのも、確か陰と陽で別けられるもののはずだ。若しも二人を足して割ったら……割と、ちょうど良い性格になるんじゃないだろうか。

「真吾に伝えろ――第二の覚醒は失敗し、咎に入ったと。先ず以て|魂宮神社《たまみやじんじゃ》へ出向き、青竜の刻印と会え」

 どうでも良い事考えちゃったな……彩夏は、不承不承ながらも頭の中で内容を反芻する。
 埼玉県、魂宮神社……。
 何で、こんな奴の言う事を素直に聞いてるのかしら。そうしてしまう生真面目な自分が嫌だが、伝言らしいから仕方ない。

「俺は咎の為に、真吾と交信が絶たれている。現ずるのも、おまえの気を手繰ってやっとじゃ……今は奴を導いてやる事もできんから、疾く青竜の刻印に必ず会うよう伝えよ」

 思いながらも、頷いてしまう自分が情けない。
 真名志は安堵したような表情を浮かべると、彩夏を見てニッと笑った。
 その笑顔に彩夏は、嫌な予感にギクリとする。

「なかなか色気のある事を、しておったようだな。艶めかしい体勢ではないか」

 股座に押し当てられた膨張に真名志はグッと、力を込めた。
 いや、ちょっと待って!
 彩夏は、真吾の身体を押し返そうと焦った。

「――ちょ、ちょっと、またその手には……!」
「承知しておるさ。時間が無いと申したであろ、残念だが何もせぬさ」

 あっさりと意外にも引いた真名志に、彩夏は警戒を解こうとしない。
 しかし真名志は本当に何もしてくる様子はなく、彩夏は拍子抜けしたようにポカンと真名志を見つめた。

「俺は交信できるようになるまで暫し眠る。娘、後は頼んだぞ――」

 真名志はまたニッと笑うと、目を閉じてしまった。

 ◇

 糸が切れたマリオネットのように、彩夏の身体にパタリと真吾の身体が倒れ込む。全体重が彩夏に重く、圧し掛かってきた。

「まったく……早く目を覚ましなさいよ。重たいじゃない……」

 何度か身体を揺すってはみたが、真吾が起きる気配はまるで無かった。
 それにしても、顔が近い。
 男子の顔を、こんなに間近に見れるチャンスなど、そうは無い。彩夏は思わず、まじまじと見つめてしまった。

「男の子も意外と睫が長いのね。それにしても無邪気な寝顔だこと」

 起きていないのを良い事に、真吾の頬をツンと指で押してみる。
 さっき可愛い顔だと言ったら、怒られたのだ。
 キツい顔立ちの彩夏からすれば、可愛い顔が嫌だとは何とも贅沢な悩みだ。コンプレックスだと言っていたけど、何か過去に嫌な事でもあったのだろうか。
 クラスでの真吾は、いるのかいないのか下手したら気づかない程に大人しい男子だ。
 独りでいる事も多く、積極的に人と関わろうとしない。冷めた雰囲気をどこか漂わせている、ゲーム少年――というイメージを、彩夏は真吾に懐いていた。
 クラス委員長である彩夏は、クラスを纏める時の指針として、クラスメイトを大きく4つに別けている――傾注の不要な人物、傾注の可否が中間の人物、要注意の人物、無害な人物。
 傾注が不要な人物と無害な人物の違いは、同じようでいて違う。
 不要な人物というのは、クラスに溶け込んだ上で、問題を起す可能性が一切ない人物を指している。無害な人物も素行に関して心配は無いが、クラスで浮いてるなと感じる人物がここに位置づけられる。
 真吾に対する彩夏の評価は、無害な人物だった。
 クラスに全く友人がいないという訳でない真吾は、後回しにしたのだ。そんな矢先に、|あ《・》|の《・》|よ《・》|う《・》|な《・》|事《・》が起こった。真吾への認識を改めようと考えていたところで、また乗せられてしまうなんて。
 己の失態を思い出し、彩夏は煩悶とする。

「何でまた、あんな事になるのかしら……もう!」

 人畜無害そうな優しげな雰囲気に、油断したのかもしれない。
 真吾は何と言うか……イメージと中身にギャップがあり過ぎて、思わず警戒を忘れてしまう。草食系男子かと思ったのに、詐欺られた気分だ。普段は大人しい真吾に、あんな強引な一面があるなんて……。

「ちょっと……何ドキドキしてんの私、バカじゃない!?」

 母性欲を刺激されるような無邪気な寝顔に騙されてはいけない。無害そうに見えても、やっぱり男の子だ。
 はじめて可愛いと言われたからって、単純にも程がある。
 いくらはじめての相手だからと言って、強引に好きにした相手を意識するとは、どうかしてる。彩夏は、妙にドキドキしている自分に苛立ち、苦悩した。
 だが彩夏が真吾に異性を意識するには、それで十分だった。
 強引かと思えば優しかったり、ともすれば意地悪なのに正直。本当は思いやりに溢れた、不思議な人――協力する気になったのは、放って置けなかったから。
 でも、今は少し違う。真吾が信じられる人だと、感じたからだった。

「人の上で無邪気に寝てくれるわね、まったく……」

 少し開かれた唇を押してみると、ぷにゅっという感触が伝わってきた。
 案外プルッとしてるんだな、男の子の唇も……。

「何をやってんのよ。本当にバカじゃない……」

 息を感じられる距離に、心音が高まる。彩夏は唇を窄めると、思わず近づけていた。
 鼓動が、だんだんと早くなっていく。
 心では、何をバカな事をしてるんだろうと思う。こういうのを、寝込みを襲うというのではないのか。
 だがそう思う一方で、何故か引きこまれている自分もいるのだ。
 彼の息を意識すると、何かが高まるような不思議な気持ち。唇を重ねてみれば何かがわかるのだろうか……。
 もう少しで重なりそうなその刹那――。
 真吾の瞼がゆっくりと開いた。

「――ぇ……!?」

 いきなり真吾の目が開いて、彩夏はギョッとした。
 釣られたのか、真吾の顔もギョッとする。
 互いに10秒ほど固まっただろうか、緊張が解けると真吾が口を開いた。

「あの……えっと、いったい何を……?」
「えっ?いえ……何って……な、何でもないわよ?」
「だって……顔、真っ赤だけど?」

 彩夏は熱く火照る頬を、隠すように押えた。
 その様子を見て真吾は、怪訝な顔で彩夏を見つめた。彩夏はその視線から逃げるように、ブイッと横を向いた。
 寝込みを襲ったなんて、言える訳ないじゃない!

「何でもないから!何でそんな顔すんのよ、何もないわよ!」
「だって怪しいし……」

 彩夏は焦った。
 このままでは問い詰めらて、吐かされる。何とか彼の気を引かないと……。

「え~っと、滝川くん……で、伝言があるのよ」
「伝言?何それ、この状況で誰から?」

 何とか彼の気を引けたようだ。
 彩夏はホッと息を吐くと、真吾に言った。

「私を襲った、あの幽霊よ……」

 ◇

 気を失っていた時分の、真名志とのやり取りを、彩夏から聞かされて驚いた。
 あの時の存在に名前があった事も驚き要素だが、驚くべき点は他にもある――刻印が、他にも存在してるという事実だ。だけど同じ能力では無いのかも。同じ力なら、自分にしか無いと言う必要が無いからだ。
 自分の持つ能力が、真吾は逃れ得ぬものなのではと思い知らされた気がしていた。何も聞かされてはいないが、しっかりと歴史に裏付けされた何かがある――そんな予感がするのだ。

「滝川くん、いい加減どいて欲しいんだけど」

 そう言われて、未だ彩夏に被さったままだった事に気づいた。

「あ――ごめん……重たかったよね」

 身を剥がすように起き上がると、ブスッとした顔がホッとする。

「ええ、凄く!滝川くんなかなか目を覚まさないから、とても重かったわ。冷えるし布団には、まあ……丁度良かったけど!」
「ひっでェ。気を失ってた僕に布団て……それはないんじゃない?」
「ぷっ……何なのその顔、子供みたいね」

 口を尖らせて文句を言うと、不意に噴出す彩夏。
 クールな面立ちが優しげに崩れて、目を細めて笑う彩夏の笑顔。釣られるように真吾も思わず微笑むと、彩夏の笑いが何故か哄笑してしまう――真吾も釣られて笑ってしまい、二人は顔を突き合わせて一頻り笑い合った。
 笑いが収まった頃、真吾は不意に窓を見た。
 カーテンから僅かに刺す斜陽は、ほんのりオレンジの色身を帯び始めていた。

「そろそろお開きにするか。先生の所に行く時間が無くなるしな」
「あ、もうこんな時間じゃない!」

 机から降りる彩夏の細い括れを、真吾は腕を回して抱き止めた。ドキリとしたような表情で彩夏は、こちらの方を仰ぎ見た。

「な……何してるのよ、滝川くん。帰るんでしょ……?」

 硬直したようなギクシャクした彩夏の態度は、何だか初心で可愛い。少しは警戒心を懐くようにはなったようだが、まだまだ甘い。
 真吾は、彩夏の心を掻き乱すように耳元で囁いた。

「真名志の所為で中断したけど――エッチするつもりでいたのに残念だなって」

 彩夏の顔が一瞬で赤く染まる。
 てっきり怒るかと思ったのに、意外な反応だ。こんな顔を見ると、悪戯心が起こっちゃうな……真吾は、彩夏の耳珠に微かに唇をつけながら囁いた。

「またあんな真似をさせるようなら――次は本気で抱くよ、彩夏?」

 彩夏は耳まで真っ赤にして、カチコチになってしまった。初心な恥じらいに身を固くする彩夏が可愛すぎて、マイジュニアの方も石化しそうだった。

「――なんてね」

 と言うと、彩夏の怒りは烈火の如く火を噴いた。

「何のつもりよ!冗談だったのね!?」
「さてね?僕は嘘だとも言ってないけど……」

 すっ呆けるような真吾に、彩夏は怒りを止めるが、一呼吸の後にハッとすると、気づいたように怒りを再開させた。

「もう!からかったの……ッ!?」
「わからいでかってね。それとも何か、期待した?」

 クスッと笑うと、悔しそうに顔を真っ赤にする彩夏。

「バカ!もう知らない!」

 と言い捨て、理沙の所へ行くのも忘れて、ドスドスと足を踏み鳴らしながら資料室を後にしてしまった。
 可愛すぎ……真吾は、暫くクスクスと笑いが収まらなかった。笑いすぎて腹筋が、ほんのり痛い。
 次は本当に抱けちゃうかも……真吾は、そこはかとない期待に胸を弾ませた。

「さて……僕も先生の所へ行くか」

 真吾は資料室を出ると、理沙のいるであろう理科準備室へ向かった。

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2018/08/01 00:00 | 竜を継ぐ者~黄の刻印の章(世界はエッチと愛で救われる)COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

竜を継ぐ者(20)委員長は男心がわからなすぎる



「私が滝川くんの味方になってあげるって、言ってんの!」

 み……見方?
 意外な彩夏の台詞に、真吾は呆気に取られた。

「あ、ほら……何かあった時に、味方は絶対に必要だと思うから……」

 付け足すように、彩夏が急いで言う。
 その言葉で、彩夏が何を心配しているのか理解できた。

「クラスで孤立する事にならないか、僕を心配してくれてる訳か……委員長は」

 すまなそうに頷く彩夏を見て、真吾は小さく溜息をついた。
 何も知らない女の子たちを、真吾は襲うのだ。下手したら、クラスの女子を全て敵に回しかねないような、危ない橋を渡るような場面も否定はできない話だ。
 彩夏の言わんとしてる事は理解できるし、確かに味方は必要なものだとは思う。
 だけど、女の子に守られるなんて……。
 真吾にも、ちっぽけでもプライドがある。

「気持ちは有り難いけど……だからって委員長が犠牲になる事はないと、思うんだけど……」
「別に犠牲だなんて思ってないわよ」
「そうは言っても、関わらせるの心苦しいよ。女の子に……」
「けど、放って置けないのよ!」

 本当に思わずといった感じで、彩夏がぴしゃりと言った。
 驚いて、思わず真吾は目を丸くした。
 大声を上げて気まずいのか、彩夏は恥ずかしそうに俯く。そしてボソリと、うっかりすれば聞き落としそうな声で、彩夏は呟いた。

「だって……さっきから何か、苦しそうなんだもの。滝川くん……」

 何だか不意打ちでアッパーを食らった気分だった。
 見抜かれてたんだなと。
 夢を見た朝にも色々と考えたし、美里に手を掛けた時にだって思った……どうして自分なのかと。納得のいかない微かな苛立ちは、今も心の底に静かに眠っていた。

「そりゃあ……何で僕がって思う部分もあるよ。幾ら女の子が抱けるからとはいえ、所詮レイプだからな」
「本音があけすけなんだけど」

 彩夏のジト目に、真吾はきまり悪そうに目を逸らした。
 素直になり過ぎたか……。

「し……仕方ないだろ、僕だって男だもん。女とエッチな事がしたいのは、本音にあるよ……」

 口を尖らせると、彩夏は半ば呆れた顔をした。
 女の彩夏に男の性欲を理解しろと言うのは、無理な話なんだろう。

「まったく、正直すぎだわ……」

 案の定、彩夏に男の性欲は理解できなかったらしい。完全に呆れてしまったのか、彩夏に溜息をつかれてしまった。

「本音が滑ったからには、否定してもワザとらしいだろ……」
「別に責めてないわよ。けど、納得はしてないって顔してるね」

 チラリと、顔を覗き見る彩夏。
 何だか見透かされたような気がして、思わず声を荒げてしまった。

「当たり前だろ!?レイプなんて望んでない!身体を好き勝手に使われるのは嫌だから、仕方なかったけど……」

 大声を出すつもりは無かったし、こんなキャラでも無かったはずだ。
 さっきから何を、激情に駆られているのか。
 けど、心の底に沈んだ鬱屈した感情が溢れると、止まらない。弱さを懐抱した、真吾の本音だった。

「本当は僕だって、普通に恋愛したかった。普通にデートして、好きな子を普通に抱きたいって思うし……」

 高校に入ったら、彼女を作るのが望みだった。普通に恋愛して高校生活を楽しむのが、夢だった。
 その望みも、奇妙な能力が目覚めたが為に、儚く消えた。
 しんみりと俯く彩夏を見て、真吾はしまったと思った。
 そんな顔をさせるつもりは、無かったのに。若しかして同情されてる?
 女の子に哀れまれるのは、ちょっと嫌だな……男としては。それに彩夏に同情して貰う必要は無いし、違うと思う。
 現状にムカつかない訳ではないが、こうなった以上は仕方ないと思った。放って置けないのなら、今は運命とやらにも従ってやるしかない。
 考えてみれば、男としてはオイシイ話ではあるのだから。

「いや、その~……レイプを歓迎した訳じゃないけど、強い拒絶もない訳で……どちらにしろ、女の子とエッチできる事には変わりは無いからさ。ハハ……ッ」

 しんみりした空気が嫌だったので適当におどけてみたら、本音が出てた。
 だいぶ呆れられたが、彩夏もホッとしたような顔をしていた。きっと彩夏なりに、心配してくれていたのだろうと思う。
 しんみりした空気もどこかに飛んでいってしまったようで、真吾も胸を撫で下ろした。

「滝川くんが何を気にしてるのか知らないけど、止めないわよ。私は別に、犠牲になってるなんて思ってないんですからね!」

 うやむやなまま放置するつもりだったのに、彩夏が元の話に戻してしまった。
 やれやれ……これは、諦めてくれそうにない。

「わかったよ、もう……委員長も、意外と強情だなぁ」

 と言うと、彩夏は気づいたようにハッとした。

「その委員長っていうの、そろそろ止めてくれない?」

 彩夏は真面目な顔で、そう言った。

「何を言うのかと思えば、そんな事かよ……」
「そんな事とは何よ!あまり好きじゃないのよ、そのあだ名……」

 少しテレながら、ボソリと言う彩夏。

「へ~……初耳だな。だって皆そう呼んでるじゃない」
「だって……委員長辞めても、そのあだ名なのよ!?卒業しても同窓会で、そう呼ばれるんだもの……堪らないわよ!学校外でも、そう呼ばれるのは……ちょっと恥ずかしいのよ!」

 なかなかの激情を露に熱弁する彩夏が、思いっきり意外だった。
 か……可愛いな、真吾はこっそりと苦笑した。
 制服姿だと余計に、委員長然としている彼女では「ああ見るからにそんな感じ」とか「安易なネーミング」とか、通行人Aにも当然のように認識されそうだし、確かに街中で呼ばれると少し恥ずかしいか。
 思い出してみると、彩夏と仲の良いクラスメイトは、彼女を名前で呼んでいたような気がする。

「じゃあ……渡辺さんって呼べばいい?それとも彩夏?」
「何でいきなりフレンドリーに名前なのよ。周りに変に思われるじゃない!」
「テレてんの?顔が真っ赤だけど――」
「う――煩いわね!」

 赤面を指摘すると、彩夏は怒って横を向いてしまった。
 時計を見ると、そこはかとなく良い時間になっていた。
 真吾としては、切り上げたいのが正直なところ。あまり長い時間、密室に二人きりというのは率直に言えば、しんどいのだ。

「で、渡辺さんの用事は終わったよね?」

 そう切り出すと、彩夏はドキッとしたような顔をした。
 その表情に何か恥らうものを感じて、真吾は動揺する。

「な……何?まだ何かあるの?」
「吹聴するような人だとは、思ってないけどさ……あの日の事、秘密にしておいてよ?」

 遠慮がちに頷く彩夏から、何か直視したらマズいものを感じて、真吾は思わず目を逸らした。

「と――当然だろ!?見損なうなよな……」
「うん……あの、それでね……」

 また何か言い辛そうに口ごもる彩夏に、流石に真吾も少しイラついてきた。

「何なんだよ、まだ何かあるのか!?」
「ご……ごめん。怒ってるの?」

 別に怒っていた訳ではなく、動揺を見抜かれたくない為のテレ隠しだったのだが、彩夏には不機嫌に見えていたようだ。彩夏は少し、しょんぼりしていた。

「違う!そうじゃないって……悪かったよ、怒ってなんかいないから……」
「じゃあ、何でイラついてるのよ……」

 と彩夏に問われて、真吾は絶句した。
 襲わないように我慢してますなんて言える訳ない。
 真吾はイラつく心を宥めて、彩夏の話をにこやかに促す。いつも流麗な彼女の話し方が、何だかぎこちない。言葉を躊躇するように、しどろもどろだった。
 遷ろう揺れた瞳も、恥らえば恥らうほど染まる頬も、正直に言えば直視し辛い。彼女にそんなつもりが全くないのは承知しているが、男と二人きりだという事を少しは意識して貰いたい。

「私が迫ったのって……どこまで酷かったのかなって……」

 待て待て待て!何を聞こうとしているんだ彩夏は!?
 逃げ出したい雰囲気と襲いたい衝動の狭間で、真吾は煩悶する。
 最も語りたくなかった部分まで、事細かに説明する羽目にまでなったのに……何なんだよ!?

「それ……先生の所で、全て話したと思うんだけど……」
「そうなんだけど……どう滝川くんに、迫ったのかなぁって……」

 マジで待てや――!?
 二人きりの密室で危険な質問をするなんて、何を考えてるのか。男の心情も考えてくれよ……真吾は、切なくなりそうな下半身を、どう宥めるべきか苦悩に喘いだ。

「どうして穿り返すような事を聞くんだよ……」
「気になるんだもの!どんな事を言って迫ったのか……だって、それを滝川くんは知ってるんだもの。気にしちゃうよ……」

 要するに、自分の知らない自分の(お強請り)姿を、何かしらで重ねて見られてハアハアされないか気になると……そういう事か!?
 彩夏はたまにドキリとするような仕草を見せつけるし「絶対に重ねたりしないよ」などという、無責任な台詞は真吾も言えない。

「そんなに気になるの……なら、教えてやるよ……」

 彩夏の身体を引き寄せて、真吾は耳元で囁いた。
 耳に熱い吐息を掛けられた彩夏は、驚いた顔で身を少し固くする。

「後で話すって言ったけど――もう遅い。僕をその気にさせるから……」
「え……ええ?あの……滝川くん?」
「渡辺さんが悪いんだよ?男とこういう場所で二人きりになるっていう事が、どんな事なのか……もう少し良く考えなよ」

 慌てる彩夏を無視して、真吾は彩夏の身体に覆い被さった。

 ◇

「どう?自分がしたお強請りで、逆に迫られる気持ちは」

 彩夏があの時したお強請りを、真吾は配役を入れ替えて彩夏自身に実演して聞かせた。要するに真吾があの時の彩夏を、あの時の真吾を彩夏に代役をさせて、彩夏自身の身体で実演して見せた。
 彩夏の困惑した顔は、少し泣きそうだった。

「滝川くん、意地悪だよ……」
「僕の気も知らないで、こんな事を言わせようとする方が意地悪じゃない?」

 そう言うと、彩夏は「わからないよ……」と首を振った。

「僕が何度、押し倒したいのを我慢してたかわかるか?君は……自分の魅力が、わかってないんだな」

 男心に無頓着なだけでなく、男に欲望を向けられた経験も、恋心を向けられた事もないのだ。自分の事を棚に上げて、意外そうに驚く彩夏の表情に、真吾はそれを実感させられた。

「私が……魅力的だって言うの?」
「可愛いよ、凄く。こんな場所で長い時間二人きりになって、何も意識せずにいられる訳がないだろ。僕に一度襲われてるのに、迂闊すぎるよ。君は……」

 可愛いと……言われた事がないのか、彩夏は。
 驚き恥らう表情に、真吾はそう感じた。
 本当はこんなに可愛い|女《ひと》なのに、表の仮面が分厚すぎて認識されないのだ。確かに眼鏡を掛けたクールな委員長では、男は寄り付かない。
 ショーツの上から、ズボンにまだしまわれたままのペニスを押し当てた。

「当たってるよね、渡辺さん。僕は、こうならないように我慢してんだぜ?」

 固く勃起した膨張が、グリグリとマン筋を擦る。
 彩夏は抵抗するように、身体の下で身じろいだ。

「や……ん!やだ滝川くん……!」
「やだじゃないだろ!?誘うような真似をして、僕を男だと認識できてなかった渡辺さんが悪い……」

 薄っすらとしたショーツのシミに、じわりと新たなシミが広がる――彩夏が興奮を感じてると知覚した瞬間、真吾の劣情は一気に燃え上がってしまった。彩夏の意思がどうであれ、こうなってしまうと男子高校生の劣情は歯止めが利かない。

「マンコ濡れてるみたいだけど……渡辺さんもエッチしたいんじゃない?」
「だめ……滝川くん、やだ……っ」

 ショーツ越しの秘部にペニスを押しつけながら、真吾の手が強引に腰を引き寄せる。やだと拒む割には彩夏に必死さはあまり感じられない――本人が気づいてないだけで、彩夏も心の底では若しかしたら……。

「ね、しようよ。ヤりたいんだよ、渡辺さんと……なあ、良いだろ……?」

 真吾は拒む彩夏に、滾った欲望を擦りつけてセックスを強請った。
 ――が、その時だった。

「……嘘だろ……」

 記憶に新しい感覚だった。
 クラクラ眩暈がしたかと思うと、精神が内に強く引っ張られた。彩夏と一緒にいる時に、この状況でまたとは――軽くデジャヴ。
 ズルズルと引き込まれて、抜け出せない。あの時と違うのは、深淵に飲まれていくような意識。
 薄れていく意識の中で、真吾は思った。
 彩夏といると、アレに出会いやすいのかもな……と。
 真吾の意識は深淵に包まれ、自分の内にすら浮かび上がって来る事は無かった。

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2018/07/31 00:00 | 竜を継ぐ者~黄の刻印の章(世界はエッチと愛で救われる)COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

竜を継ぐ者(19)委員長は責任感が強すぎる



 ホームルームが終わりを告げる。
 クラスメイトたちは、帰り支度や部活へ行く支度に取り掛かる。それを尻目にノートや教科書を鞄にしまっていると、真吾の席の前に誰か立った。
 顔を上げると、そこには彩夏が見下ろすように立っていた。
 何も言わない彩夏に業を煮やし、真吾は仕方なく自分から声を掛けた。

「委員長、何か用なの?」
「うん……。ちょっと聞きたい事が……」

 彩夏の表情に何か躊躇いを感じる。その|表情《かお》は……聞きたい事だという内容に関係しているのか?
 それにしても、意外とすんなり言葉が出てきた。
 あれから一日挟んでるし、どうかなと真吾は思っていた。彩夏に対しては、もう緊張もしなさそうだ。

「で、何が聞きたいの?」

 先を促しても、彩夏は取っ掛かりが掴めなさそうに戸惑っていた。

「先生に話があるから、僕としては早く終えて欲しいんだけど」
「わ……悪かったわねっ、手間取らせて!」
「誰もそこまで言ってないよ。まったくもう、意外と委員長、気が短いよね……」

 彩夏が声を荒げた所為で、横を通るクラスメイトが変な目で見ていく。
 止めて欲しい……目立たない男子という位置づけの自分と、クラスの委員長という組み合わせは、ただでさえ異色だ。目立ちたくないし、もっと穏便に話を終わらせて欲しい。
 真吾はグッと、声のトーンを下げた。

「あの生物に関する手掛かりのようなものを知ったから、先生に相談に行きたいんだよ」
「えっ、手掛かりなんてあるの!?」

 凄い食いつきようだ。
 理解の及ばない生体の手掛かりなんて、確かにどうやってと考えるのは至極当然だし、気持ちはわかるが声が大きい。
 クラスメイトの注目を集めそうになって、真吾は慌てて彩夏を嗜めた。彩夏は気まずそうに謝ったが、驚くような言葉を続けた。

「話が終わったら……私も一緒に、先生のとこに行くわ」

 一緒に行きたいという、彩夏の言葉が意外だった。しかも断定かよ。
 一般的な女子の思考としては、関わる事を普通は嫌がらないだろうか。
 どう考えても危険人物の自分に話し掛けるなど、真吾はそこからしても彩夏はおかしいと思っているのに……矢張り彩夏は、どこかズレてるなと真吾は思った。

「こんな意味不明な事に関わるつもり?」
「だって気になるもの!私だって無関係じゃないのよ?」
「そうかもしれないけど……」

 真吾は困り果てたように、項の辺りを掻いた。
 彩夏から見つかった訳だから関係なくは無いが、アレとまた関係を結びたいか……?
 真吾は既に無関係ではないから関わるのも仕方ないが、わざわざ煩わしい事に首を突っ込みたがる彩夏が、真吾は不思議でならなかった。

「でもさ……気になるだけなら、僕から話を聞くだけでも良くない?」
「見てるだけなんて嫌よ。あれは学校で起こった事だもの、私には把握しておく責任があるわ」

 事件は現場で起こってるんだ!
 頭の中に、思わずこんな台詞が浮かんでしまった。調子を取り戻した彩夏は、普段通りのキリッとした表情で熱弁を振るう。
 どうやら彩夏は、言い出したら聞かないタイプの人間のようだった。

 ◇

 この学園には人気が極端に少ない場所が、幾つか存在する。
 特別教室ばかりの塔には、資料室だけが並ぶ階がある。
 とはいえ、資料とは名ばかりの紙束が納められてる教室だ。施錠はされておらず、誰でも利用が可能なので、逢引に使われる事もあるとか無いとか――。
 人がいると話しづらいからと、彩夏にここに連れて来られた。二人きりで密閉空間で会話など、正直に言うと困るのだが……。

「で、委員長の用件は何?」

 理科室にあるような大机に、真吾は腰を掛けた。彩夏も習うように、斜交いに腰掛ける。
 真吾は胸中、穏やかではなかった。
 手が触れ合うほどに近いのに、あまりに警戒心の薄い彩夏。とどのつまり、男として意識されていないという事だろう。
 ちょっとショックだ……。

「私……あの生物について、家に帰ってからも考えたの」
「自分の中から出てきて怖いなぁって?」
「そうじゃないわよ!」

 からかうような口調に、彩夏がムッとする。
 彩夏には悪いが、軽口でも叩かないと真吾はやってられないのだ。

「女性だけに寄生するんじゃないなかって……若しも予想通りなら、クラスの女子が心配なのよ」

 真面目すぎる彩夏に、真吾は驚いてしまった。
 イベントが~と、スマートフォンを弄ってた頃、彩夏がそんな事を考えていたなんて。

「若しそうだとして、君が責任を感じる事は無いんじゃない?」
「そうだけど……さっきも言ったでしょ、把握しておく必要があるって。私は委員長よ?最初が私であった事も、意味深いと思うの」

 彩夏は……自分が最初の犠牲者だというアドバンテージを、生かそうとしてるのか。彼女には何の責任もないはずなのに、それでも彩夏は委員長としての責任を考えているのだ。
 クラスの女子に近づいてるかもしれない脅威から守ろうと、その為にあらゆる手段を尽くそうと懸命なのだ。
 逃げたいと一度でも考えた真吾にとって、彩夏の強さは不思議だった。
 立派だと思う。
 思うが……事は、真吾以外には収拾できないものだ。夢で知らされた事実を聞かせたら彼女は、どんな顔するのだろう。真剣な表情の彩夏に、対する真吾の気分は鉛のように重かった。

「責任感が強いのは結構だけど、後悔するかもよ……」

 その言葉が予想外だったのか、彩夏は首を傾げた。

「それは……滝川くん、どういう意味?」
「僕が女性を襲うのを、黙認する事になるけど……それでも良いのかって事さ」

 驚きに彩られた瞳が、大きく見開かれた。
 どうやら、全く想定していない言葉だったようだ。

「先生に話そうとした事にも関係してるけど、夢を見たんだ……」
「夢……?それと女性を襲う事と、何の関係があるって言うの?」
「それが、あるのさ……」

 詰問口調の彩夏に、真吾は少し苦悩した。
 彩夏が関わるつもりなら、全てを話してやるべきなのだろうか。話を聞いて思い止まるかどうかは彩夏次第だが、真吾はできれば思い止まらせたいと考えていた。
 興味本位で関わる理沙なら兎も角、彩夏は責任感だけで関わろうとしてる。
 こんな事に、女の子を関わらせるべきじゃない。

「あの生物の名前は、堕児。あれは……僕でなければ殺せない」
「滝川くんでないと殺せないって?わかるように説明してよ」

 薄暗い部屋の中、カーテンの隙間から漏れる日の光。夕方が近づく放課後の陽光は弱々しく、頼りない光の筋を床に落としていた。
 それをぼんやりと眺めながら、真吾は続けた。

「あの生物は……堕児は、僕の精液でないと死なない……」
「――は!?な……何それ、やっぱり意味わからない。それって……」
「わかるだろ?君は、最初の犠牲者なんだから……」

 彩夏の言葉を奪い、真吾は苦悩するように言い捨てた。
 その言葉に、強気だった彼女の表情が萎むように曇る――何を指した言葉であるか、察したようだった。

「僕の精液には、陰の気を祓う力があるんだってさ。陽の気が強いって事かな……それが堕児を、殺すんだ」
「何なの?その陰だとか陽の気って……だから、もっとわかるように説明しなさいよ」

 彩夏は苛立ったように、睨みつけた。

「本当に短気なんだから……僕も、説明し辛いんだよ。委員長は、陰陽思想って知ってる?」

 彩夏の方へ視線を向けると首を傾げていた。
 彼女は頭は良いが、こういう方面は疎いようだ。

「森羅万象、宇宙のあらゆる事物を様々な観点から、陰と陽の二つに分類しようっていう思想の事だよ。わかり易いところで、男と女とか太陽と月とか……対極にあるものを、二つの気に別ける考え方さ」
「へ~、滝川くんって意外に物知りね。陰陽ってアレじゃないの、木火……えーと何だっけ?」

 うろ覚えなのか、彩夏の語尾はだんだん怪しくなっていく。

「木火土金水――だよ。五行相克だね。戦国時代末期に五行思想と一体で扱われるようになってね、陰陽五行説になったんだ。僕が言う陰陽思想は、元の方さ……」

 原初は混沌の状態だった。
 混沌の中から光に満ちた明るい澄んだ気である陽の気が上昇して天となり、重く濁った暗黒の気である陰の気が下降して地となった。この二気の働きによって万物の事象を理解し、将来までも予測しようというのが陰陽思想である。
 相反しつつも、一方がなければもう一方も存在し得ない。
 森羅万象、宇宙のありとあらゆる物は、相反する陰と陽の二気によって消長盛衰し、陰と陽の二気が調和して初めて自然の秩序が保たれる。

「――っていうのが、元の陰陽思想。堕児は、混沌から生まれた……平たく言えば、魔物かな」

 言葉を切ると、彩夏は目を丸くしていた。

「おーい委員長、大丈夫……?」
「え……?ええ、平気よ。ちゃんと聞いてるわ」
「そう……?なら良いけど。委員長が自我を戻したのも、僕の陽の気の力の所為らしいよ」

 と言うと、彩夏は首を傾げて「どういう意味?」と尋ねた。

「僕の精液を、偶然とはいえ飲んだでしょ?あれのお陰で、君の体内の堕児の発する気が、少し浄化されたんだよ」

 ニヤッと笑うと、彩夏の顔が真っ赤に染まった。
 相変わらずの、初心で可愛い反応だ。あまりに良い反応を返してくれるので、変な気が擡げかけてしまった。
 そういう事に鈍感な彩夏は、真吾が邪な気持ちを懐いた事に、全く気がついた様子がなかった。

「君を抱いた時に見た、白い光――あれ……覚えてる?」
「覚えてるわ。私のお腹の辺りが発光したアレでしょ?」
「うん……あれ、僕が覚醒した証みたいなものらしいんだ。夢では、刻印覚醒の第一覚醒だと言われた。その能力は、どうやら僕にしか存在していないらしい……」

 彩夏は、疑問を感じているようだ。
 だがそれは多分――真吾にも、答える事ができないものだった。

「どうして僕にしか無いのか、委員長は疑問なんだろ?」

 彩夏は、おずおずと頷いた。

「僕にも、それはわからない。夢では……僕以外の男の精液は餌で、憑かれた女性を救えるのは僕だけだと、言われた……」

 男性の精液が堕児の餌なのだと聞かされた彩夏は、驚き、そして腑に落ちない顔をする。彩夏は、遠慮がちに言った。

「でも――夢、なんでしょう?さっき、そう言ったわよね」
「訝しそうに見んなよ。たかだか夢を簡単に信じるほど、そこまで僕もマヌケじゃない。確信があるんだよ……一つは委員長の精飲だけど、もう一つ……」

 次の句を迷うように、真吾は言葉を切った。
 表情から察したのか、彩夏は辛抱強く次の言葉を待ってくれた。

「妹だ……」
「妹……さん?」

 何の話なのか理解できない彩夏は、眉根を寄せて首を捻った。
 真吾は、何とも気まずそうな顔で遠くを見ている。彩夏は真吾の表情の理由がわからず、怪訝な顔をした。

「僕の能力にはね、堕児憑きの女性を知覚できる力もあるんだ」
「女性の中にいる堕児の存在が、わかるって意味?」

 彩夏の言葉に、真吾は躊躇うように頷いた。

「妹も……堕児に寄生されたんだよ。美里の下腹部に手を当てたら、黒い靄が立った――」
「え……まさか滝川くん――」

 凍りついたような彩夏の視線を、真吾は感じた。
 彩夏の方を見る事ができない。何ともきまりの悪い表情で、真吾は今も遠くを眺め続ける。
 これを聞けば、彩夏も流石に軽蔑するかな……真吾は苦々しい顔で、話すのを躊躇うように逡巡した。
 しかし軽蔑されても、彩夏が手を引く気になるのであれば、それはそれで構わないのではないかとも、真吾は思いなおした。

「想像通りだよ。助ける為とはいえ、僕は美里を――あいつの身体からは、堕児が死んで出てきた。それが確信の理由さ……」

 言葉を失った彩夏から伝わってきたのは、動揺だった。

「僕は最初、変な事に巻き込まれたと思ったんだ。意味不明なものに身体を乗っ取られても、変な悪霊にでも憑かれてたんだと、思い込む事がまだできた。でも……違ったんだよ」

 返答に詰まる彩夏に、真吾は説得するように続けた。

「夢の内容が現実で、ただの夢ではないと知った時に……僕は、この為に用意された人間なんだなと、思ったよ……」

 諦めたように語る真吾に、彩夏は苛立ったようにつっかかった。
 正義感だけで動ける、短気で諦めの悪いクラス委員長には、諦念的な態度が気に障ったようだった。

「どうして?それならまだ、選ばれたって思うのが先でしょ?何でそうなるのよ!?」
「選ばれたのなら、他にいないのは変だろ?」
「探してもいないのに、何でいないってわかるのよ!?」
「夢で言われたんだ!この能力は掛替えのない、稀有の力……らしいよ。だから僕にしか、この力は無いんだ。女性を襲う事の意味……それを聞いても委員長は、まだこの件に関わるつもりなの?」

 彩夏は、手元をじっと見つめたまま微動だにしない。
 その姿は答えに困るというより、迷っている感じだった。女性にとって気分の良い話ではなかったはずなのに、何故そこまで迷う理由があるのだろう。
 クラスの先々を考えての事なのか?
 クラスの危険人物を放っておけないからか?
 そのどちらにせよ、関わるかどうかを悩むなんて、彩夏はバカだと思う。
 考え込んでいた彩夏はやがて、顔を上げた。その顔は何か、大きな決意を懐いたように真剣だった。

「関わるわ……だって、やっぱり放っておけないもの」
「放っておけないって……何を安請け合いしてるか、わかってるのか!?」
「わかってるわよ!」

 真吾は、激情も露に彩夏に詰め寄った。
 いつも大人しい真吾が彩夏の肩を掴み、珍しく大きな声を上げる。その様子があまりに意外だったのか、彩夏はだいぶ驚いたようだ。
 苦渋に満ちた眼差しで、真吾は彩夏を見つめた。

「いーや、わかってないだろ!?幾ら人を救う為だからったって、所詮はレイプなんだぜ?」

 彩夏の顔が強張り、絶句する。
 どうして彩夏が、そこまで付き合おうとしてくれてるのか理解できない。
 単に、引くに引けない状況に強がっているのだろうか。彩夏は素直になれないところがあるし、でなければ拘る理由がわからない。

「女性を襲うような事に、女の君を加担させたく無いんだ、僕も……」
「心配に思ってくれるのは嬉しいけど、だったら猶更よ」
「何が猶更なんだよ……」

 真吾は彩夏の肩を掴んだまま、困ったように呟いた。
 何を言っても、彩夏に引く気配が無い。どうしたら諦めてくれるのか、口下手な真吾は困惑した。
 困り果てる真吾を他所に、彩夏は更に混乱するような言葉を続ける。

「私がなるって言ってんのよ……」
「……は?何になるっていうんだよ」

 彩夏の言葉の意味がわからずに、真吾は僅かに苛立った。
 次の彩夏の返答は、まさに予想の遥か彼方を行っていた。

小説家になろう・ノクターンノベルズでも連載中です◇










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2018/07/30 00:00 | 竜を継ぐ者~黄の刻印の章(世界はエッチと愛で救われる)COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

竜を継ぐ者(Another;美里)マ○コの奥も調べさせて



◆この話は、消えた世界線のお話です◆
ストーリーを途中で変更したために、このストーリーは架空ストーリーとなっています。
本編ではエッチ1回だけなのですが、改編する前はエッチ3回だったのです。
この話は3回戦目のエッチの話。
架空ストーリーとなっているので、小説家になろう「ノクターンノベルズ」様の所では、掲載されていません。


「目が覚めた?」

 沈黙が過ぎり、気重な空気が二人の隙間に流れる。
 美里は気まずそうに顔を伏せたままで尋ねた。

「お兄……あたし、どうしてたの?」
「少しだけ気を失ってた……」

 自分の方を向いて欲しく無さそうに目を逸らす美里。
 だいぶ手荒な真似をしたからな、そんな顔されても仕方ない……真吾も目を合わせ辛そうに、どこか遠くを見ていた。
 美里は真吾がまだ先を考えている事に気がついていない。終わりだよねと、どこか安堵を見せるの顔に僅かに胸が疼く。その顔をまた歪ませるのかと、真吾は胃が持たれそうな気詰まりを感じた。
 堕児とこれから先も関わるしかない真吾にとって、アレが齎す催淫の効果は知らなければならない知識の一つだし、助ける上でどうしてたって必要になる。
 美里には可哀想だが必要な事だからと、真吾は心に言い聞かせる。
 横たわる美里の身体を起し、膝立ちの背面立位で真吾は後ろから細い体躯を抱きしめた。

「――ちょ……お兄、何……?」

 安堵しかけていた顔に警戒の色が僅かに滲む。
 はじめてを奪った時も同じ事をしたんだったな……。

「確かめたい事があるんだよ。ごめんね、少しじっとしてて」
「――あっ……お、お兄……またこんな……んっ」

 耳朶に吸いつき、興奮を抑えながら耳輪にゆっくりと舌を這わせていく。
 仕方ないと言いつつも、興奮を誘われてしまう。
 心は抑えられても下半身はそうはいかない。感じた劣情を体現するかのように、美里の尻との僅かな空間で、ペニスがビクビクと暴れている。
 がっついてしまいそうな衝動を、真吾は何とか宥めていた。

「お兄っ……確かめたい事って、こういうの……!?」

 拒もうと身を捩る美里の頬が、恥ずかしさからか朱に染まっていく。
 戒めのように回された真吾の腕が、美里の細い肢体を逃れられないように拘束する。身じろぎできない程にキツく抱き竦められたの身体を、兄の指が再びいやらしく撫で回す。
 乳輪のラインをなぞるように指で撫でながら、徐に起立をキュッと摘み上げた。

「ふぁ……あぁん!お兄……ダメだってば……あふ!」

 美里の身体が腕の中で弾む。
 真吾には美里の身体が快感から冷めていないように感じるが、どの程度なのかが判別できない――。

「まあね……あの酷い疼きがちゃんと治まってるか心配なんだよ。あれもね、堕児が及ぼす効果だから。しっかり治まってないと美里は外も歩けないぞ」

 肌を撫でただけで驚くような声を出していた状態から考えると、喘ぎは控えめに感じる。治まっているようにも見えるし、い無いようにも見える――。
 他人の身体をボディタッチだけで確かめるのは難しく、真吾には確信が持てないでいた。
 こうなったら仕方ないよ……な。

「――お兄!?な……何でソコ、押しつける……の?」

 尻の方から膣口に押しつけられる亀頭に、美里が激しく狼狽する。

「マンコの奥も調べさせて……な、良いだろ?」
「ま……また!?ま、待ってよ。お兄……!」

 熱い膣口に押しつけているだけで、興奮がドッと湧き上がってしまう――ヤバい、挿れたくて堪らない……。
 膨張した雁首をぬりゅぬりゅと擦りつけて、真吾は耳元で囁いた。

「美里の|膣《なか》に挿れさせて……」

 囁く言葉に鼻息の荒さを感じたのか、身を反らす美里。
 正直に打ち明ければペニスで無くても調べる事は可能だった。目的を忘れた訳では勿論ないが、エッチしたい欲求の方が遥かに強い。
 真吾の17歳思春期の性欲は、再び暴走を始めてしまっていた。

「はあ……はあ――美里、挿れたい。|膣《なか》に……ヤらせて美里」

 真吾は熱い膨張を擦りつけながら、ねっとりとした声音で美里に迫る。
 未だとろりとした蜜が溢れるスリットを押し開くように、ゾリゾリと雁首のエラが割れ目の溝を前後する。
 美里は痺れるような誘惑から逃れるように腰を引いて抗う――その腰を真吾の腕が引き寄せて、逃れるのも抗うのも許してはくれない。

「美里とヤりたいんだ……挿れさせてくれよ――な?」
「ダメだよ、お兄――ああん、ダメぇ……」

 拒む様子は見受けられるが、本心からでもなさそうだ。美里から強い拒絶は感じられず、寧ろペニスに恥部を擦られてうっとりとしてすらいるようだ。
 強引に押せば美里は折れる――そんな気がした。

「調べさせて……もう我慢できないよ。な?美里……」

 宛がった雁首をヌルリと動かすと、美里の返事も待たずに真吾は強引に腰を前に突き出した。

「あはあッ!!お……お兄ィ――あん!」

 挿入の衝撃に、腕の中の美里がビクビクと戦慄く。
 まだまだ昇った興奮が冷めていない所為もあるのだろうが、最奥を突き上げる快美感に美里は甘く囀った。
 間髪入れず、先ほどキュンキュンしてると美里が報告してくれた場所――そこをペニスの先でコンコンとつつく。

「さっきと比べて、|膣《なか》はどんな感じか教えて。ココは疼く?」
「あっ……ああっ!さっきよりマシだから……お兄、止めてぇ!あああ……!」

 ビクビクとしながら嬌声を上げる美里の姿は、傍目からでは微々たる差に感じても鎮静はしているようだ。
 美里の言葉を信じるなら、堕児の催淫は膣で絶頂を迎えれば治まるようだった。

「治まってはいるみたいだね。でも――気持ち良いんだな、ココ……」
「だ……ダメだって、もう調べ終わったでしょ、もう終わり!」

 その気になった劣情は簡単には止まれない。
 昂ぶる膨張が美里の|膣《なか》で更に大きくなる。押し広げるように膨らんだ勃起肉は、美里の狭い膣穴を隙間無くギチギチに埋めてしまった。
 応える美里の恥肉が、求めるように切なくペニスを締めつける。

「何がダメだよ、美里のマンコしたがってる。こんなに締めつけて……僕も美里とエッチしたい。だからこのままヤらせて……」

 興奮に突き動かされた腰が勝手に前後運動を開始する。
 内粘膜を勃起肉がズリズリと捲るように擦すり上げて、くちゅくちゅぬちゅぬちゅ卑猥な抽挿音が部屋に響く。
 抽挿の振動でたぷたぷと波打つ双丘がとても扇情的だ。

「お兄、激し……あっあっあっあァ~!!声が……出ちゃう……っ」
「ごめん、なるべく抑えて。美里のやらしい声も聞きたい」
「そ――そんな事、言われても……くぅ!お兄、強引だよぉ……っ」

 凄い|膣《なか》の圧迫――先を押さえつけるような子宮の圧迫と、雁首を締めつけるような側面からの圧迫。
 先細りの圧力がじわじわとペニスを締めつけて、引いたり挿れたりするとヒダがしつこく纏わりついてきて、腰が蕩けるような心地良さだ。

「でもおまえのココ――悦んでるよね?凄ェぎちぎちに締めつけてる。あ……ヤバ、気持ち良いー……」

 動かすとすぐにでも果てそうな感覚に襲われる。
 奥まで挿し込んだままでグリグリと左右上下にペニスを揺すると、抉られるように雁首で嬲られる子宮口。
 その感触が凄まじいのか、腕の中で美里の体躯が飛び上がるように跳ねる。
 飛び跳ねるの肉体をギュウっと背後から抱き締めながら、緩やかに揺れる乳房に唇を張りつけ、柔らかい脹らみに口づけるように吸いついていく。
 やがてその頂点で魅惑的に揺れている蕾に辿りついた。
 サーモンピンクの切り替えしに舌先を這わせて、円を描くようになぞり――ぷっくりとはち切れそうに膨らむ突起に舌を絡める。

「うくっ……んくっ……凄いぃ、お兄ぃ。凄いよぉ!はぁう、ああぁ~っ!」

 ツウと溢れ流れる涎が、喘ぎを忍ぶ唇から零れる。
 悦楽に酔いしれる顔はもう、メス全開の表情――さっきまで処女だったとは到底思えない、ふしだらな顔だった。
 自分の手で女にした。自分の手で猥らな顔をする女に……そう思うと、震えるような喜びに真吾は包まれた。
 堪らなく可愛い……愛おしいとすら感じる。

「美里、可愛い……こんなに締めつけて、凄いよ。食い千切られそうだ……」

 美里の|膣《なか》でペニスが軽くグラインドすると、ぴったりと張りつく美里の性器が、ヌプヌプと音を立てながら剛直を擦る。
 だんだんとその動きは早くなっていた。
 やがて種付け衝動が最高潮に達して、抽挿の動きは苛烈を極めた。

「あああ~!激しい、お兄ィ!!だめ!だめぇ~!くうあぁあぁん!!」

 先細りだった締めつけが膣道にまで達して、全体でペニスをギュウウと締めつける。背筋が弓なりにピンと張り詰め、尻がまるでペニスを強請るように突き出されたかと思うと――、

「お兄――い……いくいく、イっちゃう!お兄、イク!あんっあんっあんっあっあっあっあっ……あはぁあぁあぁ――――――っ!!」

 うお――ヤバい、凄い締めつけ!!
 堪らない締めつけに、美里の絶頂と同時に射精衝動が競り上がる。

「僕も、もう射る!間に合わない……ごめん、|膣《なか》に射すよ……!!」

 ずりゅ――鈴口が子宮口に当たる手ごたえを感じながら、開放される種付け汁。種付けせんと飛び出す白濁が、ビュルビュルと快楽の極みに到達中のの子宮に兄の味を教え込む。本日二度目の快感を植えつける行為に、柳腰がビクビク跳ねるような動きで痺れた。
 ツンと反らされたおとがいに垂れる唾液がふしだらに光る様は、如何わしくも甘美な光景……真吾は思わず目が奪われてしまった。
 トクントクンと、昇り終えた二人の性器が響き合うように脈動する。
 余韻を愉しむ二人は、暫く身動きができなかった。真吾は己で味を覚えこませたを、愛しそうに抱きしめた。

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2018/07/29 00:00 | 竜を継ぐ者~黄の刻印の章(世界はエッチと愛で救われる)COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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