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竜を継ぐ者(1)胎動

 女が一人、生えていた。
 湖面から、まるで上半身を生やすように。
 静かに佇む姿は女神像の美しいが、無機質で冷たく見えた。
 半裸に近い肢体は、薄布が一枚打ち掛けられているのみで豊満な乳房が剥き出しだ。乳房は男を魅了する程に豊かだが、蝋のように青白く生気というものがまるで感じられない。
 だが動いている。非常にゆったりとした動きではあるが、大きな脹らみは上下していた。

「動き出したようじゃのう?」

 涼やかだが膚寒さを感じる冷涼な声だった。
 畏怖を与える威圧に満ちた響きは低く、身の毛も弥立つようなこの世のものではない何かを予感させる。
 女の傍には傅く影が一つ――。

「――はい」

 影は影で、湖面に浮いていた。
 闇で染め上げたようなゆったりとしたローブが、スッポリと頭から被られている為に性別は判別がつかない。
 声音も中性的で、声から判別するのも難しい。
 二人の周囲には湖面から突き出た石柱が何本も、不規則に乱立していた。天然の鍾乳石なのか、氷柱石は天井から流れるように湖面下へと落ちている。
 天井が存在するという事は野外ではない。
 俗に言う地底湖と呼ばれる場所だった。どの程度の規模なのか、四方は完全に闇に飲まれ確認はできない。
 二人の周囲は微かに仄明るく、その光源は女の下から発せられているように見える。女の足元と思しき場所に、小さな儚い光が幾つか明滅していた。
 徐々に命を吹き込んでいるようにも見えるし、徐々に命を吸い取っているようにも見える――弱々しい光は、揺れるように儚い光を水面に投げかけていた。

「此度に降誕した黄帝の確認はどうじゃ、進んでおるのか?」

 女は傅くローブの人物に向けて、問いかけた。
 ローブの人物は恭しく頭を下げると、女に丁寧に答える。

「目星は凡そついてございます。後は目覚めを待つばかりかと」

 ローブの人物の答えに女は満足そうな笑みを浮かべる。

「子らの習性を推すれば現然たる事であったな」
「はい――既に手の者を周囲に忍ばせております」

 その言葉に女は優雅に頷いた。
 耳朶や首に掛けられた玉が、頷く挙動に合わせてチャラと美しい音を奏でた。

「妾は此の場より時が来るまで動けぬ故、そなたに全権を委ねる。頼むぞ?」
「命に代えましても、必ずや吉報をお持ち致します――大君」

 ローブの人物は最後に深く一礼をすると、スッと溶けたように姿を消した。
 大君と呼ばれていた女は満足そうに瞼を閉じると、時を止めたように微動だにしなくなる。青白い肌の所為も手伝って、まるで氷の彫像のようだった。
 後には――。
 静寂と、時おりポタリと垂れる雫の音だけがその場に残されたのだった。

 ◇

 暮れ泥む放課後の教室。
 滝川真吾《たきがわしんご》はクラスメイトの女子とふたりで、不思議な光景に遭遇していた。
 墨を落とし始めた空は、遠くの方に僅かに黄昏の色を残すのみで、既に宵の明星が西の空に輝いていた。
 突如として現れた、クラスメイトを包む白い光。その光が教室に忍び込む暗がりを払うように、二人の周囲だけ仄明るく照らしている。
 ふたりは光に戸惑い、驚きながら――ただ唖然と見つめていた。

「な、何これ……この光、私から出てるの……!?」
「どうやら……そうみたいだ……」

 目を開けられないとい程に眩しい光ではなかった。
 だが、直視するにも少し眩しい。
 淡く少し儚げな、蛍を思わせるような優しい光。
 その光は二人の顔を仄かに照らしながら、やがて命が燃え尽きたかのようにだんだんと弱くなっていった。

■ 滝川真吾(たきがわしんご)

 本編の主人公で高校二年生。
 人付き合いが少し苦手なので周りからは無口だと思われているけど、打ち解けるとそれ程でもなかったりします。冗談だって言うし調子に乗る事もあります。
 温和だけど変な所でプライドの高い部分も持っていて、特に女性に対しては守りたいという意識が強いです。多分それは遺伝的なものもあるんだと思います。
 書き直し前の物を読まれていた読者さんは、真吾を草食系男子だと思ってらっしゃる方は多いと思いますが、真吾は草食ではないですね。とは言え肉食でもない。
 真吾は雑食系男子に入るんだと思います。普段は温和で優柔不断そうな印象ですが、キメる所はきちんとキメるタイプって感じです。
 趣味はゲームと読書、映画鑑賞。特技は絵画と合気道。
 童顔がコンプレックスで、可愛い系の顔。歌手のジ●スティン・ビー●ーのデビュー当時(前髪重い系のヘアスタイルの頃くらい)を日本人顔にしたみたいな感じ。
 普段は薄い茶をしていますが、日の加減によって金色に見える瞳をしています。
 身長は178センチ。
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小説家になろう・ノクターンノベルズでも連載中です◇










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2018/07/11 02:25 | 竜を継ぐ者~黄の刻印の章(世界はエッチと愛で救われる)COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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