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竜を継ぐ者(14)いつもと違う朝の日常①



「どうしたの真吾、その頬っぺた」

 チラッと視線を向けると傍に、母の|滝川美土里《たきがわみどり》が立っていた。
 美土里は、真吾の片側だけ赤い頬に目を向けながら、食卓に目玉焼きやらソーセージやら乗った皿を置いた。
 真吾はやや憮然とした表情で美土里に返事する。

「何でもない。触れないで……」

 どことなく幼気で38歳とは思えない愛々しい美貌に呆れた笑みを浮かべて、美土里は肩をひょいと上げた。
 キッチンへと戻る美土里と入れ替わりで、美里がテーブルに着く。
 ダンディイケメンの父親に似た端整な目鼻立ちを、不機嫌そうに顰めさせて一瞬だけ真吾を睨みつけた。

「まだ根に持っているのか?」

 声を掛けると、美里は不機嫌な顔をチラリと向けてプイとそっぽを向く。
 まだまだ風呂場での事故を根に持ち、不機嫌全開だ。
 しかしあれは事故だし、こっちだってビンタ食をらった――そろそろ許してはくれないだろうか。

「なあ――謝っただろ~?わざとじゃないんだし、そろそろ機嫌直せよ」

 朝から気まずい雰囲気に嫌気が差して、真吾は不機嫌な横顔にコソコソと囁いた。小声なのはほんの少し、ジロジロ見てしまった後ろめたさからである。

「だって――絶対に見たもん……」

 いつもは素直な奴なのに、今朝はなかなかに手強い。
 まだ許す気なんてないんだからというような、強気な顰めっ面。頬を少し赤らめているのは、恥らいが僅かながらあるという事なのか。
 兄を相手にそこまで気にする事もないと思うのだが……。

「見てない見てない」

 こんがりと焼かれたトーストに歯を立てながら、真吾は面倒そうに答えた。
 鬱憤をぶつけるように、美里も自分のトーストにジャムを乱暴に塗ったくる。
 乱暴すぎて皿の周囲にジャムが飛び散って、非常に汚らしい。乱暴なのは幼少期からずっと一緒にいる幼馴染の影響か?
 もう少し淑やかにできないのか……妹よ。
 
「見た!」
「見てない」
「ジロジロ見てたもん!」
「発育途上の尻なんて見ても何も思わないから安心しろ」
「やっぱり見たんじゃない!」

 売り言葉に買い言葉な口喧嘩が唐突に勃発してしまった。
 こうなる予定はまるでなかったのに、口が滑ってしまったので収めようがない。
 その喧嘩の仲裁は、いつも通り外野からやってきた。

「あんたたちいい加減にしなさい!」

 コーヒーのカップを乗せた盆を手に持った美土里がそこに立っていた。
 眦をギュイッと釣り上げた美土里が……。

「だって、お兄が……」
「美里がいつまでも煩いからだろー?」

 まだ続く兄妹喧嘩に、美土里の堪忍袋の緒が切れる。

「いつまでやってるの!遅刻するわよ!?」

 母の頭上には長い角が生えていた。
 美土里の剣幕に、二人は借りてきた猫のように静かになると同時に返事をする。

「ハーイ……」

 ◆◇◆

 黒い門扉を開けて車道に出ると、左手に同じ高校の制服を着た見知った顔が出迎えた。
 同学年で幼稚園からの長い付き合いの隣人、|相原千佳《あいはらちか》だ。
 所謂、幼馴染というやつ。
 腐れ縁もここまで続くと男友達と変わらないものがあるが、千佳の容姿がそれを増長させている部分も否定はできない。
 少年のような栗色の短い髪と、陸上少女らしい天然の小麦色の肌。
 腰のラインが貧弱で胸の起伏はささやか……華奢と言えば聞こえは良いが、色気とは縁遠いボディライン。
 だからと言って、真吾が貧乳を否定しているわけではない。
 ギャルゲーでもアニメでも、貧乳女子は立派な属性だ。二次元のチッパイ少女には、幾らでも魅力的な雰囲気の子は沢山いるのである。
 故に、千佳に足りないのは女性らしい――それ以前の、女の子らしい雰囲気。千佳には男がグッとくるような雰囲気がまるでない。
 それはきっと、容姿に伴った男の子っぽい性格にもあるのだ。
 キッパリ、さっぱり、ハッキリ。
 千佳を表現するに相応しい三つの言葉である。それは千佳の長所でもあるのだが、女の子らしいかと聞かれると……。

「珍しいな――今朝は陸上部の朝練は?」
「真ちゃんおはよ~。寝坊し――ふあぁ~……」

 語尾をしっかり体現するように、千佳は大きな口を開けて眠そうに息を吐いた。乙女という言葉がさよならしそうな見事な欠伸だ……。
 こいつ……女子高生という自覚はあるのか?
 そんな千佳をたおやかな女性の声が呼び止めた。

「千佳、ちょっと待って……」

 千佳の後ろから現れたのは息を切らせた、30歳そこそこに見える佳麗な女性。
 ウエーブをつけた長い髪を一つに結わえた、実際は39歳の美熟女――千佳の母親の|相原千鶴子《あいはらちずこ》である。

「何さ母さん、息切らしてさ」
「あんたお弁当忘れて行ったから……」

 こうやって見ると本当に対照的だと真吾は思った。
 並んでいるのを見ていれば、確かに血の繋がりを感じる程にそっくりではある。だが雰囲気が赤の他人だ。
 美人で淑やかでスタイルも良くて、ご近所の男性陣にも人気がある千鶴子に、憧れを仄かに懐いた経験は真吾にもあった。
 弁当を無事手渡した千鶴子を見送りながら、何の気なしに呟いた。

「女らしさが遺伝しなくて残念だったな?」

 その瞬間、重たい音と共に腹に鈍い衝撃が走る。千佳が女の子らしく見えない最大の理由――それは乱暴ですぐ手がでる所だと思う……。

「ごふ……ッ」
「男みたいで悪かったねぇッ!」

 真吾の鳩尾に千佳の拳がクリーンヒットしている。
 ヨロリとよろめくと千佳の肩に手を掛けた。
 ――が、その瞬間。真吾の脳裏にフッと映像が過ぎった。
 小学校の――低学年くらいだろうか。
 背中に届くくらいの長さの黒髪を、美里のようにサイドを編みこみにしたヘアスタイル――後姿なので顔は良く見えない。
 季節は夏なのか、少女は萌黄のキャミソールワンピースを着ている。
 少女の小さな手は、浅黒い骨ばった手に繋がれていた。
 前をずっと向いて歩いていた頭がフッと横を向き、少女の顔が見えた。
 顔に見覚えがある。あれは――。

「真ちゃんってば!」

 自分を呼ぶ声で我に返った。
 気づくと千佳の肩に頬を着けているらしく、ぼんやりとした視界に健康的な小麦色の首筋が見えた。視線を上げていくと眉を顰めた、怒って良いのか困って良いのか迷っている千佳の顔。

「千佳…………」

 萌黄ワンピのあの子は――千佳だ。
 小学校2年以前の記憶はだいぶ怪しいが、記憶に残っている千佳の姿は少年と見まごう逞しい姿ばかりだ。
 ただ、あの姿に真吾は朧げながら見覚えがあった。
 ワンピース姿の千佳は、小学校2年の頃の――確か夏休み。それ以上の記憶はないが、千佳もあんな女の子らしい姿をしていた頃もあったんだな。
 懐旧の情に思わず口角を緩ませる真吾だったが不図、奇妙に感じた。
 今まで思い出しもしなかったのに、どうして突然まるで白昼夢みたいに懐古風景が脳裏に浮かんだのだろう?

「もー!真ちゃん重たいんだよ。いつまで寄り掛かってんのさ!」

 焦れたような千佳の声が耳元でグワンと響いて、真吾はビクリと驚いた。

「ああ、びっくりした……何だよ大きな声で」
「そのまま喋るなぁ~、息が~~~!」
「何だよ、別にいいじゃんか……ケチ」

 千佳はこそばゆそうにモゾモゾと身悶えながら、頭を背けるように遠ざける。
 しかし邪魔する髪のない首に、結局は真吾の息が直撃してしまうようだ。千佳は酷くくすぐったそうに顔を顰めた。
 終には真吾の頭を向こう側へ押しやろうと、グイグイ手で退けようとする。

「クラクラするんだから少しくらい肩かしてくれてもいいじゃん~」
「も~!重いよ~、いい加減にしろよなーッ」
「何ならこのまま引きずって行ってくれていいよ~」
「ボクに真ちゃんが運べる訳ないだろ~ッ。身長差を考えて~……!」

 肩に抱きつくようにしな垂れ掛かると、千佳は酷く焦った顔をした。
 千佳がいきなり暴れ出すものだから、体勢が前方へ崩れた。

「いい加減に離し――わわ……!」
「危な――」

 流石に華奢な千佳の身体では支えきれずによろけた。
 グラリと後ろによろめく千佳の細い肢体を、真吾は千佳の腰に急いで腕を回して支えようとする。腰が抱き寄せられたような形で、千佳は真吾に抱き竦められた。

「おっと。ふざけ過ぎた――って、何を赤くなってんの?」

 千佳はギョともドキともつかないような、引き攣った表情のまま硬直していた。

「な…………な、なってないから!いーから離せ!」
「いきなり暴れるな――ぐは……ッ!」

 再び千佳の拳が鳩尾にクリーンヒットする。よろめいた真吾は、今度は地面にうっつぷした。
 腕から開放されて、ホッとしたように息をつく千佳。
 千佳の顔は緊張したように強張り、頬が矢張り赤くなっていた。
 やっぱり赤くなってるじゃねーか、嘘つきめ……鈍い痛みを訴える腹を抱えて、遅まきながら思春期でも来たのか千佳は……と、真吾はそれを少し憂鬱に感じた。
 以前はこの程度のじゃれ合いは普通だったはずなのにな――と。
 千佳は女を意識する事なく接する事ができる、数少ない周辺女性の一人だ。そうでなければ長く続く事はなかったし、女性を避けていた頃に遠ざけてしまっていたに違いない。
 少し過度なスキンシップも平気でできてしまう千佳は、真吾にとって大切な友達であり家族みたいなものだ。
 だがそんな千佳にも、じゃれ合いへの羞恥が生まれたのかと思うと……少しだけ寂しい気持ちになった。
 互いに年頃だし、潮時と甘受するしかないのだろうけど……そういう部分が面倒だな、男女の幼馴染ってやつは。

■ 滝川美土里(たきがわみどり)

 真吾の母親で38歳。
 小柄で未だに20代に間違われるような童顔な容姿です。
 美人というより可愛いというようなタイプ。真吾は母親似ですね。
 身長は152センチ。スリーサイズはB85 W60 H85。
midori.png

■ 相原千佳(あいはらちか)

 真吾と美里の幼馴染。真吾とは同級生で高校も同じ。陸上部所属。
 活発で明るく、少し乱暴なところがありますが、とても世話焼きで人情家。
 男の子っぽくしてますが、長年していたのでもう既に地になっているかも……でも根っこは結構乙女チックですね。
 文字だけでは男の子っぽさが出し切れない為に「ボク」っ子にされました。以前の千佳ではボーイッシュさが足りん!と苦肉の策……文字だけでボーイッシュにするのは矢張り難しい。
 身長は154センチ。スリーサイズはB79 W55 H83。
chika.png

■ 相原千鶴子(あいはらちずこ)

 千佳の母親で39歳。
 優しげで清楚系な美人。
 貞淑で上品なのでご近所にも覚えの良い、良い母親って感じです。
 身長は162センチ。スリーサイズはB90 W61 H86。
tizuko.png

小説家になろう・ノクターンノベルズでも連載中です◇










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2018/07/24 00:00 | 竜を継ぐ者~黄の刻印の章(世界はエッチと愛で救われる)COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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