「――ご……ごご、ごめんなさい!」
うっかり真吾の肩に頭がもたれ、泡をくったように謝る美奈。跳ねるように急いで起きる姿は、何と言うかちょっと滑稽で愛らしくすらある。
頭を首に座らせて置くのも、そろそろ困難そうに見えた。
大丈夫なんだろうか……隣りの美奈を気にかけると、あまり平気には見えない。重そうに項垂れる頭を、フラフラと揺らしていた。
見てられないな……。
美奈の頭に手を添えると、真吾は首の上に戻ろうとする頭を自分の肩にボスッと押しつけた。
「た……滝川くん!?あ、あああ、あの……っ」
美奈の顔が茹蛸のように真っ赤に染まる。
真吾もメチャメチャ恥ずかしい――が、場合が場合だ。
「まだ下車駅まで15分はあるんだろ?無理しないで、そうしてたら?」
流石にテレが凄まじく、美奈の顔が直視できない。
なるべく平静は装っているが心臓はドキドキと煩いし、緊張はどうしたってしてしまう……彩夏に慣れただけであり、女の子に対して慣れた訳ではないのだ。
少し前ならこんなリア充爆発しろみたいな事は、無かったよなぁ……自分に起こる事も有り得なかったし、自分からやる度胸も勿論なかった。
堕児に関わってから、その辺りが加速度的に変わったと思う。
それが良い事なのかどうか悩むところではあったが、取り合えず今は役得なのだと思おうと真吾は自分を納得させた。
「あの――誤解されたりとか……滝川くん困るんじゃ……」
「っぷ、誰に?」
そんな心配をされる事があまりに意外で、真吾は噴き出してしまった。
「えっ……どうして笑うの?」
「いや、変な事を気にするんだなって……僕に彼女がいるでもないのに」
そう言うと、美奈は困ったように俯いた。
何だか彼女の頭上に、飛んでいく汗の幻が見えたような気がした。
「だって……あの……私なんて嫌じゃ……って……」
「別に嫌じゃないよ。それに――」
どうやら美奈も我が家の姫君のように、先に相手を気遣うような子らしい。
誤解を気にするなら、女の子の美奈の方なのに。
「どっちかって言うとそれ、僕の台詞だ」
「――そんな事ない……誤解されて困る相手もいないし……」
「なら良いけど。変な事に気を回さなくて良いよ――嫌でないならね」
「……うん」
天使の輪くっきりの頭が、安らぎを求めるように元の場所へと納まりに向かう。
どうやら、少なくとも嫌がられてはいないようだ。取り合えず一安心だな。嫌がられてたら、これから先が憂鬱になる。
自分の身体にもたれて安らぐ美奈に、何の気なしに目を向けて真吾はドキッとしてしまった。
胸元に頭が来ているのだ。
肩を貸してるつもりなのに、抱いてる気分になるじゃないか……本当に小さいんだな。腕にスッポリ納まってしまう程に小さい美奈のか弱い雰囲気は、これぞ女の子という感じ。
性格も大人しいし、まるで小動物みたいだ。
それもウサギとか子猫とか、保護欲を掻き立てられそうな感じの小動物。
守りたいと感じさせるような抱きしめたくなる可愛さは、女の子らしい女の子ってこういうのかなと勝手なイメージを懐かされてしまう。
何せ、自分の周囲にいる女の子が千佳と美里だ。美奈のような雰囲気の女の子は周囲にはいないし、比べてしまうのも仕方ない。
真吾は、急に意識し始めた。
これからこの子を抱くのか……と。
ぎこちない緊張は解けたものの、別の緊張が身体に降りてきてしまった。
思わず美奈の身体に、目が向いてしまう。緩やかな起伏に細い腰……オイシソーな身体のラインを目にして、思わずゴクリと喉が唾液を飲み下す――。
真吾は、ハッとした。
いやいやいや、こんな場所で何を考えてるのか。人目のある場所で、女の子の身体を舐めるように見るなんてバカか、変態かよ!
真吾は目を逸らそうと、車窓に目を向けた。
なし崩しに犯してきた今までとは、何か違うものを真吾も感じていた。
これからこの子を抱くと意識しながら、エッチする相手と行動を共にするという状況は、真吾もはじめてだ。意識するとヤバいくらいに緊張してくる。
若しも彼女がいたら、こういうものなのかもしれない。
例えばデートの日に、今日こそは彼女とエッチするんだと心に決めて、デートの最中にも凄まじい緊張を男は味わうのだろう。
そんな緊張が心身を満たし、駆け巡っていく。
抱くのかと意識すると、もうダメだった。マイジュニアが、意識と共に一気に膨張を始めてしまった。
どうしよう……このままではマズい。彼女にバレたら、何と思われるか。
諌めようと四苦八苦してると、美奈の頭が不意に動いた。
「た……滝川くん?」
窺うように、美奈がこちらを僅かに見上げた。
さらりと流れた前髪が、瞼の上を軽やかに滑っていく――その瞬間、隠れていた美奈の目が片方だけ露となった。
その刹那、はじめて美奈と目が合あった。
ドキリと心臓が大きく跳ねたと思うと、真吾は息を呑んだ。
綺麗だ……。
彼女の目の第一印象は本当にその一言に尽きた。他には何も浮かばない程に美しい、吸い込まれてしまいそうなくらいに綺麗な瞳。
漆黒の黒曜石に星を散りばめたような彼女の瞳は見惚れる程に美しく、蛍のように儚なげに揺れる光は、神秘的な雰囲気が漂っていた。
思わず言葉を失い、放心したように真吾は美奈の瞳を見つめた。
美奈はボッと顔から火が噴いたかと思うと、真吾の視線から逃れるように俯いてしまった。
残念……見えなくなった事を、真吾は心底残念に思った。
もっと見つめていたかったな……などという気持ちが芽生えると、彼女の顔を見てみたいという欲求に駆られた。
あんなに綺麗な目を美奈はどうして隠しているのだろうか。
真吾はそれが不思議で、喉に引っかかった小骨みたいに気になった。
◆◇◆
午後6時を30分は回ってしまった為に辺りは既に暗く、空には綺麗に星が瞬いていた。
目の前に広がる森林は鬱蒼と暗く、歩道に等間隔で設置された街灯の光も頼りなげに思えた。昼は違うのだろうが、暗くなると本当に寥々とした雰囲気のこの森林公園。街の郊外だからなのかもしれないが、それでも人気があまりに少ない。
美奈は、いつも寂々寥々とした道を帰宅しているのだろうか。
「はあ、はあ――流石に……疲れた……」
そこそこ大きな池に、張り出すように設置された休憩用の東屋。東屋にあるベンチ――15人近く座れそうな座卓のような大きさ――にドサッと腰掛けると、真吾はそのまま寝転んでしまった。
結構な距離を歩いて来たので、もうクタクタだった。
公園に差し掛かったところで美奈が倒れて、美奈はそのまま気を失ってしまった。その美奈を抱いて、真吾は東屋まで連れて来た。
美奈の家は知らないし、このまま放置もできない――それ以上に、真吾は美奈を堕児憑きから救わなくてはならない。例え知っていたとしても、家には連れて帰れなかった。
小説のヒーローのように、何か大きな後ろ盾でもあれば違うのだろう。単独でコソコソとする必要も、無いのかもしれない。
だが、真吾にはそんなものは無い。後ろ盾なんてものも無ければ、代わってくれる人もいない……。
この選択は、仕方のない事だった。
美奈が寝ているその横に、万歳状態で真吾は身を投げ出した。
屋根の合間から夜空が見える。冬の足音が聞こえる11月の空気は、星が鮮明で綺麗だった。夜空を見上げた事など、そういえば無かった。たまにはこういうのも、悪くない。
冷たさを帯びたそよ風に汗ばんだ頬を撫でられ、真吾は目を閉じた。
静閑な虫の声、小さな漣のような池の水面の音……静かだな、人の声もしない。
まるで別世界に迷い込んでしまったようだった。
静かな空気は嫌いじゃない。自分自身がそうだし、落ち着く……。
「――って、こんな事してる場合じゃない」
真吾はハッと起き上がると、隣りに横たわる美奈の様子を窺った。
倒れた時よりも気息奄々で、悪化してるように見える。
赤々と熱を帯びた頬に浮かんだ汗は、筋を作し緩やかな肌を滑っていく。美奈の意識は今も、戻ってはいないようだった。
「大崎さん……」
彼女の名前を呼びながら、玉のような汗が光る肌に張り付いた前髪を指で梳いてやった。
露となった美奈の素顔は、まるで目覚めを待つ人形のように綺麗だった。美人と言うには雰囲気が少し違う。どちらかと言えば可愛いに近いが、ぴったりという表現でもない。
趣のある美しさは、可憐という言葉が一番しっくりくるなと真吾は思った。
「これは――傷か……?」
鼻の上の額の部分――そこに3センチ程度の切り傷のような細い傷跡。不自然な程に長い前髪のは傷を隠す為のものだと、真吾は思い知った。
顔の傷を気にかけない女性などいない。
傷を誰にも見られたくないが為に、綺麗な顔を異様な風体で隠す悲しい乙女心――それを思うと、真吾は言いようもない切ない気分に囚われた。
人目を引く傷でもないのだから、気にせず顔を出せばいいのに……と、思ってしまうのは真吾が男だからだ。
胸の奥が痞えたような、塞いだ気分は何なのだろう。これから美奈を襲おうというのに、何故こんな気持ちを懐くのか。
彼女の髪を梳いた指を、そのまま顔のラインに沿って、ツツ――と這わせると、ピクリという反応を返す美奈。
意識がなくても感じるものなのか……?
頬まで下ろしてきた指を、顎から首筋にかけて這わしていく。
美奈はピクリとしながら――、
「あっ……あんっ」
唇から艶のある声を零した。
話した時の消え入りそうな声とは全く違う、実際の彼女の声――美奈の悦楽の声は、まるで夜に漂う金木犀の芳香のようだった。可愛く可憐で……脳を痺れさせるような、蠱惑的な甘い音色。
気がついたらペニスはガチガチに勃起し、ズボンの中で強く反り返っていた。
この程度の反応で、こんなになってしまうなんて。驚くほど過敏なマイジュニアに、真吾は少し恥ずかしい気分になった。
違う……そうじゃないと、真吾は気づいた。
電車の中でも美奈を意識し、既に勃起してた。
美奈の素の魅力に、強い劣情を感じていたではないか……。
サワサワサワ……。
木々がそよ風に撫でられて、葉ずれの音を奏でる。
星が降るように輝く夜空の下――眼下で力なく横たわるクラスメイト。今日以外に話した事も殆どない彼女の細い身体を、ボーっと真吾は眺めた。
大きく上下を繰り返す、肌蹴た胸のなだらかな脹らみ。薄白い街灯の灯りに浮かび上がる、白さが艶めかしい細い太腿。文化部らしく生白い肌には、発情による発汗が玉となり弾けるように浮かび上がって――真吾の目に嫌にエロティックに映る。
薄明かりに浮き出た彼女の肢体を、様態を気遣う目から――いつしか舐め回すような、いやらしい眼差しで真吾は眺めていた。
本当は、意識を戻してからと考えていた。
美奈に意識がなければ口説けないし、自我の有無についても気にはなった。
しかし芽生えた劣情は、心を無視して加速度的にどんどん脹らむ。
意識のない彼女を犯して本当に良いのか、罪悪感が抉るように心を苛む。今更それを躊躇した所で、堕児が寄生している以上は犯さなくてはならない。意識を取り戻した美奈が拒めば、どとの詰まり結果は同じ――襲うしかないのだから。
彼女を抱きたいと思う気持ちは、自分自身にもどうにもならない。
真吾は躊躇いに震える指先を、美奈のワイシャツに掛けた。
「犯しちゃうけど、ごめんね。助ける為だし……不可抗力、だよね?」
ボタンを外す毎に露となっていく、美奈の白い胸元――肌蹴けさせると、薄いグリーンの可愛いブラジャーが完全に顔を出した。
ふわっとした控えめな脹らみは、美里よりも小ぶりに見えた。
下着を着衣したままの双丘を手のひらで丁寧に包み込むと、手のひらに収まる可憐な脹らみを、脇から寄せるようにギュッと掴む。
手のひらにすっぽりと収まるサイズの美奈のおっぱいは、確かに大きいとは言えない。だが外見からわかる大きさから思えば、想像以上のものだと真吾は思った。
熱を帯びた双丘を揉み上げながら、天地創造の如く隆起させた谷間に口づけると、柔らかくふんわりとした幸せな肉感が真吾の唇をやんわりと包み込む――。
押さえが、利かなくなった。
もち肌の美奈の肌は心地良く、ふわっとした質感は小ぶりでも十分に満足できる。その柔らかい脹らみにチュッチュッと舌と唇でキスを施しながら、堪らない感触に痺れるように酔いしれた。肌理の細かい美しい肌は飽きる事なく、何時間でも口づけられるような至高の肉感だった。
美奈の素肌に、魅了される程の感動を真吾は覚えた。
■ |大崎美奈《おおさきみな》
真吾のクラスメイト。
額の傷を気にして、長い前髪で目元下まで隠してる、物静かで引っ込み思案な女の子。凄く小柄で、折れそうな感じに痩せ型。
美術部に所属しており、休み時間は絵を書いて過ごすなど絵を描くのが大好き。いつもスケッチブックを持ち歩いてます。
そのスケッチブックは恥ずかしい時に顔を隠したり、壁の役割も果たす(笑)
リアルのモデルは特にいないのですが、イメージが近いなぁと思えるのはアニメ東●喰種:reの鈴●什造の女装した時……が一番しっくりくるイメージです。
とびきりの美少女という訳では無いし、美人でも無いけど、綺麗……そんな絶妙な雰囲気の女の子です。
私もイメージがなかなか掴めなくて(脳内にはあるんだけど)、何回も描き直しました。それでも上手く表現できなくて、時間も無いので諦めました(笑)
目の雰囲気だけに気を使って描き上げましたが、未だに美奈のイメージイラストは未完成です。まぁ、こんな雰囲気って事で……。
身長は150センチ。スリーサイズはB83 W54 H84。
◇
小説家になろう・ノクターンノベルズでも連載中です◇
◆◇ 関連リンク ◇◆竜を継ぐ者~黄の刻印の章(世界はエッチと愛で救われる)第一話へヒミツのカンケイ第一話へ『 M 』第一話へお兄ちゃんと私 第一話へ
2018/08/03 00:00 |
竜を継ぐ者~黄の刻印の章(世界はエッチと愛で救われる)
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