体温循環が始まり、身体を密着させた箇所が熱を感じ始める頃には、マズい事にペニスはギンギンに勃起していた。
どうしたらと焦っていると、美奈が静かに尋ねた。
「ねえ、滝川くん……どうしてキス、してくれたの……?」
そんな話を振られるとは思わなかったので、少し驚いた。
眦や頬にしたキスを言っているのだと思うが、真吾は自分でも正直なところ、口づけた理由はわからなかった。
「どうしてかな……君の涙を見るのが辛かったから……かな」
「罪滅ぼし……みたいなもの?」
「違うよ……いや、そうなのかな。ごめん、自分でも良くわかってなくて。気づいたらしてたよ……」
キスの衝動の原因が涙なのかどうか、その辺りは真吾も良くわかっていなかった。
だが男である自分は、確かに女性であれば抱けるし、きっとキスもできる。
だとしても、フッと湧き出る衝動は誰に対してでも起こる訳ではない。言葉にするには難しいこの気持ちは……誰にでも生まれるような感情では、ないと思う。
そうであるなら、彩夏を抱いた時に彼女にもキスしてたはずだ。キスしたくなったのは多分、美奈だから……。
「……一つだけ言うなら、はじめてなんだ。僕が自分からキスした女の子は……」
「私が……はじめてって……あの、滝川くん……」
どう受け止めればというような戸惑いに、美奈の瞳が揺れる。
美奈は気づかないのだろうか。
気があるのかなとか思いそうなものなのに、気づかないのか?
美奈は言葉にしなければ、確信を持つ事ができないほど自信のない子なのかも……あまりに察しの悪い美奈に、真吾はそう結論づけるしかない。
ズルいかもしれないが、美奈がそんな女の子で助かった。
「ごめんね、僕も自分で何故なのか理解できてないんだ……」
困窮した表情に感じ取ったのか、美奈はそれ以上は聞かないでいてくれた。
「唇には……してくれなかった癖に……」
思わずホッとしていると、美奈は拗ねたように唇を尖らせた。その表情が堪らなく可愛いくて、胸がキュンと疼いた。
「ただでさえ処女を奪ってしまうのに、ファーストキスまで奪うなんて……」
「奪ってくれて良かったのに!変なところで律儀だよ……滝川くん!」
美奈のあまりに必死な表情に、抑えていたものが抑えられなくなってしまう。指でクイッと美奈の顎を持ち上げながら、親指の腹で彼女の唇をゆっくりと撫でる。ぷくっとした唇の脹らみ……その柔らかさを知覚すると、真吾は堪らなく口づけたくなった。
それでも美奈に無理強いをしたくなくて、その欲をギリギリで抑え込む。
「煽ると今からでも……奪うよ。どんなに僕が我慢してると思ってるんだ」
突然のアゴクイに美奈の顔がカアッと染まる。ドキドキと胸が高鳴るような美奈の表情に、歯止めが利かなくなりそうで怖くなった。
「――いい……奪っていい……」
「他の女の話を聞かされても、応えられないって言われても猶……はじめてが僕でいいって言うの?」
絡み合う視線に心音が早まる。
美奈に自分を忘れさせてあげないといけないのに、彼女の唇に口づけたくて堪らなくなる。相反する気持ちに揺れる心に、まるで美奈はお構いなしだ。
「それでも滝川くんがいい。私のはじめてをどうせなら全て奪って……!」
美しい双眸を切なく揺らめかせて、情熱的にキスを強請る。
こんな言葉に抗える男がいるだろうか。
「大崎さん……」
至近距離で美奈と視線が絡み合う。
もう止まれそうにない。
美奈に口づけたい。抱きしめて、花のように柔らかそうな唇にキスしたくて堪らない。
彼女は僕が好きだし、僕も美奈に惹かれてる。
今の二人を、誰も邪魔はしない。
ここまで来てしまったのなら、せめてひと時の間だけでも夢を見せてあげたい。
消えてしまう夢の時間であっても、今だけで良いなら……。
「今だけ――美奈って呼んでいい?」
心に触れるような微笑みで、真吾は静かに囁いた。
頷く美奈の眦に、涙がキラリと光る。
「ごめん――まさか泣かれるなんて……」
「違うの、嬉しいの……名前が特別なものになったみたいだから……」
「そう言って貰えるなら、僕も嬉しいよ……美奈」
美奈はそっと目を閉じた。
美奈のキス待ち顔が可愛いくて、その顔を良く見たいと思った。それを邪魔する前髪に、そっと手を掛けたその瞬間、弾かれたように美奈が反応し……髪を払う事を、美奈は拒んだ。
◇
小説家になろう・ノクターンノベルズでも連載中です◇
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2018/08/08 00:00 |
竜を継ぐ者~黄の刻印の章(世界はエッチと愛で救われる)
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